ドコモが導入したIPv6シングルスタックにメリット・デメリットはある?
ついにIPv4の枯渇問題に対応するためにIPv6のみを使用する方式を採用することに決まりました。
そもそもシングルスタックって何?どういう影響があるの?という疑問にネットワークエンジニアが利用者のメリット・デメリット観点から簡単に解説していきます。
ネットワーク技術的な内容はほぼ省いてザックリとした説明をしていますので、理解はしやすいと思います。
IPv6シングルスタックとは?
2022年2月1日よりドコモが採用する端末へのIPアドレス割り当て方式の1つで、IPv6アドレスのみを端末に割り当てる方式です。
スマートフォンやPCが通信するためには、IPアドレスが必要です。簡単に言うと住所みたいなものです。このIPアドレスにはIPv4アドレスと呼ばれるものとIPv6アドレスと呼ばれるものの2種類が存在しています。
- IPv4アドレス
- IPv6アドレス
これまではIPv4/IPv6のデュアルスタック方式だった
これまでのスマートフォンはIPv4とIPv6のアドレス両方を持っていました。
IPv6サイトやIPv6サービスを利用する時はIPv6アドレスで通信し、IPv4サイトやIPv4サービスを利用する時はIPv4アドレスで通信していたので、スマートフォン側としてはIPアドレスを2つ持っていて、通信先によって使い分けていたことになります。
これからはIPv6アドレスのみを持つ(シングル)ことになるので、IPv4サイトやIPv4サービスを利用する際はアドレスをIPv6からIPv4に変換する必要性が出てくることになります。
これからはIPv6のみのシングルスタック方式!
IPv6アドレスしか持たないようになるので、IPv6サイトやIPv6サービスを利用する時はIPv6アドレスでそのまま通信し、IPv4サイトやIPv4サービスを利用する時は通信設備内でIPv4アドレスに変換して通信を行うようになります。
これがIPv6シングルスタック方式というものです。
とは言っても、スマホ利用者からはIPアドレスを常日頃から意識していないように、IPv6アドレスだけになると言っても何も変わることはありません。
IPv6シングルスタックのメリット
ここまででIPv6シングルスタックがどんなものか分かったと思うので、シングルスタックのメリットを見ていきます。
メリットをたくさん述べたかったのですが、実は利用者が直接受けるようなメリットはありません。IPアドレスが変わるだけなので。
現実世界で言うと家屋は同じなのに住所が変わるだけというイメージでしょうか。「このエリア今まで川崎だったけど明日から横浜だよ。」みたいなイメージです。(これはこれでいろんな手続きは面倒だけど。)
日常生活が変わるわけではありません。
ただ、下記のようにこれまでIPv4/IPv6のユーザーアドレスが不足する度に頑張って捻出していた設計が、IPv6のみのシングルスタック構成になることでユーザーアドレスが不足することなくシステム用アドレスを払い出すことが可能となります。
IPアドレスは集約して装置設備に設定することがあるので、そのような設定誤りが無くなりやすくなることはメリットかもしれません。利用者としても障害がすくなるでしょう。
また、デュアルスタックではドコモ内の設備がIPv4用とIPv6用の設定が必要になっており負荷が高かったのではないかと思うので、シングルにすることで負荷が減り通信性能が良くなるかもしれません。
あと、様々な資料ではネットワークがシンプルになるとのことで、故障や障害が発生しにくくなり安定した通信サービスを受けられるようになるのではないかと言われています。多分アドレス設計の話を言ってるのかなと思います。
IPv6シングルスタックのデメリット
メリットがなくデメリットがあるのかと気になる方も多いかと思うのですが、実はデメリットもそこまでありません。
IPv6シングルスタック方式ではIPv4サイトへアクセスする際はドコモの設備でIPv4に変換するので、何も困ることはなく通信が可能です。
ただ、ドコモの設備内でIPv6をIPv4に変換する作業が増えるため変換器に何かしらのトラブルが起きてしまうと、IPv4サイトにアクセスできないという可能性もあります。
利用者にはどういう影響がある?
メリット・デメリットの項で示したように、ほぼ影響はありません。
利用者側での設定変更や申し込み等は全く不要なので、何もしなくていいです。
メリットも無ければデメリットもないし設定変更・申し込みも不要なので何もスマホ利用者側が意識することも変わることもありません。テザリングも通常通り可能です。
「日本中に家が建ちすぎて住所割り当てられないから新しい体系の住所つくるわー、今使ってる住所使ってくれれば役所の方で変換するからなにも覚えなくていいよー!」
程度のものなんです。
通信帯域が大きくなるわけではないので通信速度などに関しても、基本的には差分は発生しません。
ただ、通信経路上でIPv6端末のみが通る通信経路があるのなら、IPv4のみを持つ端末と比べると帯域が空いている分、若干速度が速く感じるかもしれません。
(いずれIPv6対応端末やサイトが増えてくるので、どこかしらで逆転しますが。)
今IPv4で通信しているかIPv6で通信しているかを確認するには以下のサイトにアクセスすれば分かります。
IPv6シングルスタック対応端末
基本的にはこれから販売される機種が対応端末となります。
加えて、これまで販売されてきた端末はIPv4、IPv6どちらにも対応しています。そのため順次IPv4割り当てを削除していくことになります。
現在の発表では31機種と言われています。さらに古い機種はIPv4のみの可能性もあります。
Android | SH-51A、SO-51A、SC-51A、SO-52A、SC-54A、2021年夏以降のモデル(SO-41B、KY-41Bを除く) |
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iOS | iPhone12以降のモデル(OSバージョン:iOS 14.5以降) |
ホームルーター | HR01 |
データ通信端末 | 2020年夏以降の5G対応モデル |
MVNO(格安SIM)への影響は?
今のところは、仮想移動体通信事業者(MVNO)については現時点ではIPv6シングルスタックに対応はしていないとのこと。おそらく今後の協議で決まるものと思われます。
IPv6シングルスタック導入により障害発生
2月1日IPv6シングルスタック導入初日に障害が発生し繋がりにくい事象が起きていました。
障害の原因は、携帯電話とネット接続に関する設定の変更でサーバーに一時的に負荷がかかり、ネットワークへの通信を制御する信号が端末に送信されたためと説明している。
▶ドコモの通信障害「一時的にサーバーの負荷が上昇」…1万8000人に影響
IPv6アドレスをIPv4アドレスに変換する変換サーバの負荷が上昇し上手く機能しなかったとの報告が上がっています。
導入前に検証しておけよって話があると思うのですが、規模が大きいネットワークほど実際に試験環境を構築するのは難しかった面と、サーバースペックなどの理論値的に大丈夫だろうという側面があったんじゃないかなと思います。
ただ、サーバーなどの通信設備に負荷がかかったときに端末側に通信制御の信号が飛んでくるというのは本当の話なのかな?
僕もキャリアのネットワークと関連したりしているので、その辺は怖いなとつくづく思います…。
通信障害に備えておきませんか?
新たな取り組みでは通信障害は起こり得るものなので、「通信障害に備えて予備回線を持っておこう!」に記載していますが、メイン回線とは異なる回線を予備で持っておくことをおすすめします。
まとめ
本記事ではIPv6シングルスタック方式についてご紹介してきました。
シングルスタックになったことで何かが劇的に変わるわけではなく、単にアドレスの持ち方が変わるだけであり通信自体にもほとんど影響はないので、構える必要もありません。
これまで様々なキャリアはどうにか頑張ってIPv4のアドレスを捻出してきましたが、ドコモが正式にIPv6シングルスタックを採用したことで、これからIPv6の活用に本格的に動き出していきそうですね。
特にスマホキャリアであるauとソフトバンクも夏ごろまでには導入するんじゃないかなと思います。